【書評】それから(ボンボンニートの恋愛小説です)

「それから」が書かれたのは1909年で、著者は千円札でおなじみの夏目漱石さんです。時代背景で言うと、日露戦争が終わったのは1905年ですので、戦争に勝ってから4年後の話ということになります。戦勝国気分に沸いている頃の日本のボンボンニートの恋愛ストーリーと考えると、非常に親しみが湧いてきます。

この話の主人公は30歳のニートで、親からの仕送りで暮らしています。今でいうとパラサイトシングル、というか親のお金で一人暮らしをしながらお手伝いさんを雇っているので、かなり性質の悪いニートということになります(笑)そんな彼にも縁談の話がやってきます。羨ましい限りです。ニートなのに縁談話、しかも相手は美人で親は金持ち。最高の話ですよね?私なら確実に結婚します。なのに主人公はどうも煮え切りません。何かが心に引っかかっているようです。

そんな主人公は、世の中の世相についてこんなことを述べています。「都会じゃ同じ相手を想い続けるなんて至難の業だ。現代の都市では人はあまたの心動かされるものに接触しうる...つまるところ、現代の都市とは人間の展覧会もしくは見本市みたいなものなのだ。誰も彼も用があれば相手と自由に恋愛している。都市は都会人同士、皆が関係をつくりやすく配置されている。つまり皆が皆、芸妓だ」
これは今でも通じる内容ではないでしょうか?それが1909年の小説に描かれていることに、私は非常に驚きました。今の東京でも、人は自由恋愛を楽しみ、それがゆえに結婚を躊躇うという状況がおこっています。日本人が日本人である限り、時代は変わろうとも男女関係はあまり変わらないことがよくわかります。

そして話を進めていくうちに、主人公の人生が停滞している理由が明らかになります。
数年前、主人公には付き合ってはいなかったものの仲がよい女性がいました。しかし突然、おこった環境の変化に翻弄され、その女性と結婚することにはなりませんでした。そして、その女性は主人公の友人と結婚することになります。主人公はそれを祝福しましたし、一件落着したかのように見えていました。でも主人公は、その時に自分の本当の気持ちに気づいていなかったのです。それは、その女性のことが大好きだという気持ちです。自分の気持ちに気付いてしまった主人公は、それを抑えることができません。時が止まってしまった人生を動かすべく、友人の妻を奪うことに躊躇いながらも、それを実行しようとします。。。

男が女を想い続けることは、今も昔も変わらないなとつくづく思いました。悪くいえば男は100年前から未練がましいのかもしれません(笑)三角関係、略奪愛、こういう恋愛小説を娯楽として楽しんでいたのが戦前の日本人です。今の日本人と全く変わりませんね。
興味がわいたら、是非、読んでみて下さい。